ゆとりある設計とは? 1
 
ここまで紆余曲折あって、何とか作成の前段階「ブースの設計」に入りたいのですが、
今回のテーマ「ゆとりある設計」とはを考察したいと思います。
 
 
「自作塗装ブース」既製品にない魅力もありますが、大きな落とし穴があります。
それは「作成したけど満足しなかった」という問題です。
それなりの手間や金額をかけて作成したのに「満足しなかった」というのは不本意です。
 
計算や考慮、段ボールなどで試作することで、ブースの大きさや排気ダクトの経路等は解消できますので、
「満足しなかった」と思う一番の点は「思ったほど吸い込まなかった。」ではないでしょうか?
これを避ける手段として、様々な考察を重ねてきましたが結果は結局作成しなければわかりません。
 
 
「ゆとりある設計」とは結果が芳しくない場合、1から作り直すのではなくできるだけの省コストでなんとかする部分(ゆとり)を持っておく事と考えます。
 
 
・設計時考慮点
 
まず「思ったほど吸い込まなかった。」場合の回避を考慮点とします。
次にここまでの時点で「できるだけ能力の高い換気装置」を購入していて、「換気装置自体の再購入はできない。」とします。
(再購入できるのであれば既製品やもっと能力の高い換気装置を無理してでも購入する事をオススメします。)
 
1. 排気ダクトの経路を変更できるようにしておく。
 
先の計算でもありましたが排気ダクトの経路が曲がったり距離が長いと換気装置の能力オーバーになる可能性があります。
また計算に組み込まれるほど排気ダクトの経路による抵抗は無視できません。
排気ダクトは作業スペース内では邪魔以外なにものでもありません。
その為どうしても無理な曲がりを作りがちですが、
たとえば同じ90度に排気ダクトを曲げるとしても半径が長い緩やかな曲がりの場合、圧力損失を抑える事ができます。
 
下記図7a. の半径R1の様に急激なに折り曲げないよう半径R2の様に考える。
例: φ100mmの場合半径Rは100mm(外周150mm)以上、φ150mmの場合半径Rは150mm(外周225mm)以上
 
図7a. ダクトの方向変更について
換気ダクトの簡易チェックリスト」より。

 
 
あと注意したいのが、換気装置の排出口やダクトコネクターのような部品を使いダクトを差し込んで繋いでいる場合
下記図7b. の様に無理やり曲げると圧力損失がとても大きくなります。
接続の際は注意が必要です。
 
図7b. コネクターとダクトの接続について

 
 
また下記図7c. の様に空気の流れ逆らった接続を非推奨としている製品も多いです。
これはS字配管の時のような抵抗増加を招きファン本体での圧力損出が増大するからと推察されます。
できれば排気装置の吸気・排気口近くはできるだけ抵抗の無い様にする必要があります。
 
図7c. シロッコファンにおけるダクトの接続方向について
換気ダクトの簡易チェックリスト」より。

 
 
設計段階のうちに少し余裕のある経路や別経路の検討をしておくのも良いと思います。
送風機の圧力」にもダクトの接続に関して詳しく解説が載っています。
 
 
2. 掃除のしやすさを考慮しておく。
 
使えば当然汚れます。そうすれば吸引力は当然おちます。
粉じんがダクト内に溜まれば火災につながる可能性もあります。
設計時点で仕切り板が簡単に取り外せるか、
後方や上部が簡単に取り外せるようにしておく事で「掃除する意欲」がそがれる事も減ります。
さらに「掃除しやすい=ブース中を確認しやすい」事となり、
異常がないか吸気に影響を与えている部分はどこか確認修正できるなどの利点が多くなります。
 
 
3. 排気装置の接続を変更できるようにしておく。
 
引っ越しや部屋の模様替えで塗装ブースの位置が変更になるかもしれません。
使っているうちに「この場所に移動したい。」となるかもしれません。
天井埋込形は排気装置を後方配置にした場合、本体ごと回転して取り付け直す事で排気口を上下左右に変更可能です。
排気装置を上方配置にした場合は、内側から差し込むのではなくブース上部に乗せる形で設置するほうが付け直す事が楽なはずです。
 
その為には設計時点で取り外しを考えておく必要があります。
気を付けないと「ネロ式ブース」の特徴である仕切り板を止めるための金具等の関係で
ブースの一部を破壊しないと排気装置が取り出せない可能性があります。
作成前にブース内の仕切り板の止め方を工夫して取り外しに影響が及ばないようにするか
簡単に破壊、修復できるようにしておく事も考えておくと良いでしょう。
 
 
4. ブース排気口と排気装置吸気口の接続を考えておく。
 
図8. 入口損失(広い領域から管に流入する場合の損失)
主な管路抵抗と計算式 | 技術コラム(吐出の羅針学) | ヘイシン モーノディスペンサー」から抜粋。

 
 
この図で表されている値は大きいほど抵抗が高い事を示します。
例: (a)は(b)より抵抗が大きい。
ブースの内圧室と排気装置をつなぐ際の接続方式ですができるだけ(c)に近づけるのが理想です。
壁取付型の場合(c)が採用されているのが一般的なのですが、天井埋込形だと採用されている機種が減ります。
本来はこの抵抗を考えるより能力の高い排気装置を選んだほうが早いです。
実際この加工でどの程度の差になるかと言われると正直「わかりません」し、
設計の際迷ったら「こんな話もあるんだな」と思いだす程度で良いかと思います。
※効果については次のゆとりある設計とは? 2で解説します。
 
ダクトコネクター」をブースに接続する際、強度を出したいが為
ブース壁面に穴をあけ内側から差し込む方式をとりたくなりますが、その場合(d)(e)のような状態になります。
できるなら外側に設置して穴自体をドーナツの内壁のような曲線を描く(c)の形に加工するのが理想的です。
 
換気装置が天井埋込形の背面設置での場合は自重が重い為、どうしても四角く穴をあけ内側から差し込む方式となります。
その場合は、薄い板でさらにフタをする事やこの様な「ルーバー」を後から設置できるスペースを開けておく必要かあるかもしれません。
またできるなら外側に設置してシロッコファンの径部分だけの穴を壁面に開け曲線を描く(c)に加工するのも一つの案です。
 
 
5. 部屋の吸気を考える。
 
いままでは、「排気」する事を重点的に考えてきました。
しかし「排気」するには十分な「吸気」が無ければなりません。
本来「排気量 = 吸気量」でなければ本来の換気能力を発揮できません。
また吸気口に関しては排気口に対して対角線上がベストです。
※「換気の方法」から「有効開口面積(cm²) = 0.7 x 風量(m³/h)」なので
例:「風量300m³/h x 0.7 = 有効開口面積210cm²(ドア高190cmだと約1cm程度)」が求まります。
※「流体工学部門:流れの読み物:楽しい流れの実験教室」の「新型コロナウイルスに負けるな」シリーズが動画で判りやすいです。
 
しかしラッカー系塗料などを使うと匂いが心配。騒音などもあるので、つい部屋の扉を閉めたりしていませんか?
その場合十分な吸気が行えない為、排気できなくなってしまします。
 
簡単な対処法は「ブースの反対側の扉か窓を開ける」事です。
さらに「部屋に向かって扇風機を回す」などするとさらに良いでしょう。
微力ですが「プッシュ・ブル型換気装置」のような効果が見込めます。
 
その状態で一度試してから今度は「吸気」する為の穴の設置を検討するのも良いかもしれません。
※排気口のそばに吸気口を作るとせっかく外に出したのに、また部屋に戻ってしますので位置に関しては注意が必要です。
 
 
以上を設計段階で考慮して具体的な対処方法とは
 
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