排気装置の選定基準 4
 
この様な資料があります。
VOC排出対策ガイド―2塗装偏 」177ページ
塗料1kgをスプレー式で吹いた場合、どのぐらいの分量に判れるかの資料です。
またこの中には「スプレー式をどう吹いたら効率的か?」「揮発性有機化合物(シンナー等)の回収方法」などの内容も書かれています。
 
この資料長くて108ページもありますが読み進めると一つの疑問が持ち上がります。
「塗装ミストの吸引と揮発性有機化合物とを別に考えている」
ということは
「塗装ミスト」と「揮発性有機化合物(シンナー等)」の吸引は別に考えたほうが良いのでは?。
※もともとVOC(揮発性有機化合物)排出対策ガイドですから...
 
長々読んでこられた方からすると「当たり前だろう」と思う方が大半だと思いますが、
いままで様々な考察の中で計算を行ってきました。
しかしどうしても計算結果の値が大きすぎて現実的ではなかった理由がわかりました。
まとめると
・「塗装ミスト」は重い(密度の濃い)気体なので拡散速度は遅い為、ネロ式ブース内の下方吸引で吸い込む事ができる。
・「揮発性有機化合物(シンナー等)」は軽い(密度の薄い)気体なので拡散速度は早いが、ネロ式ブース内の上方吸引でおおむね吸い込む事ができる。
となります。
 
 
その中でさらにこのような資料を見つけました。
塗装ブース基礎マニュアル
これは法令上塗装ブースにおける最低限必要な風量を表しています。
種類としては大きく2つに分類できます。
型式 方式 制御風量(m/s)
囲い式フード塗装物および塗装者がブース(フード)で塗料を噴霧し吸引する方式0.4以上
外付け式フード塗装物および塗装者はブース(フード)で塗料を噴霧し吸引する方式0.5~1.0以上
「制御風量」とは法令上塗装ブースにおける最低限必要な風量を表しています。
ネロ式ブースは「囲い式フード」に分類されますので「制御風量 0.4m/s以上」となっています。
一応塗装ブースでの「制御風量」には上限も存在するそうです。
(塗装ブースの吸い込みが強すぎる場合、塗装面にうまく塗料が乗らなくなる為と考えられます。)
それを踏まえると「制御風量 0.4~15.0m/s(24~900m/h)」辺りだそうです。
※ただし工場などでスプレーガンを使う場合の基準です。
 
この「制御風量 0.4m/s以上」という値は、ドラフトチャンバーでも適用されています。
ドラフトチャンバーとその換気システムについて」より
囲い式フード
有機溶剤中毒予防規則(有機則)
   0.4m/s以上
特定化学物質障害 予防規則(特化則ガス状)
   0.5m/s以上
特定化学物質障害 予防規則(特化則粒子状)
   1.0m/s以上
「制御風量 0.4m/s以上」とは有機溶剤(シンナー等)を使う上での最低基準と考えられます。
 
 
先の資料で「外付け式側方吸引型」での計算結果を見ると、「非現実的な排気風量になります」との一言が...
そうなんです。今までの吸気に対する考えが「外付け式フード」だった為に計算が合わなかったのです。
そうするとの「タミヤ ペインティングブースⅡ(ツインファン)」「Mr.Hobby Mr.スーパーブース」が思ったほど吸わない理由もわかります。
 
ネロブースの場合で、「制御風量 0.4m/s」から「排気風量」に変換してみます。
開口面積は幅x高さが各500mm厚さ5mmと仮定して、
500mm - (5mm x 2箇所) = 490mmから0.49m
0.49m x 0.49m x 0.4m/s x 60 = 5.7624m³/secから345.744m³/h
ネロブースの換気装置は400m³/hなので全体で圧力損失を10%とで考え360m³/h
排気風量基準「345.744m³/h」 < ネロブース「360m³/h」となります。
さすが先駆者、きちんと考えられていますね。
※上2つの計算自体は圧力損失計算で簡単に行えます
 
 
これでやっと基準となる数値の値と理由がわかりました。
 
 
・「塗装ミスト」と「揮発性有機化合物(シンナー等)」の吸引は別と考える。
・「塗装ミスト」に関しては基準となる「制御風量 0.4m/s」からブースの幅・高さを基準として「排気風量(m³/h)」が計算できる。
・「排気装置の必要排気風量」は「排気ダクトの直線換算と径」で計算できる「圧力損失」と「ブース内圧力損失」から10%以上で求めることができる。
※上2つの計算自体は圧力損失計算で簡単に行えます
・「揮発性有機化合物(シンナー等)」については、厨房での必要換気量一覧を参考にすることができる。
 
 
以上がここまでの結論となります。
 
 
そうすると、今度は塗装ブースと排気装置の関係性が見えてきます。
塗装ブース内の
幅と高さ
排気風量基準
(0.4m/s)
排気風量基準
(0.5m/s)
排気風量基準
(0.6m/s)
50cm x 50cm360m³/h450m³/h468m³/h
40cm x 40cm230m³/h288m³/h300m³/h
30cm x 30cm130m³/h162m³/h169m³/h
※本来は跳ね返り防止板の面積を引いて計算しなくてはなりません。
 
 
簡単な表にしましたが、実際は圧力損失計算で計算してみて下さい。
けっこうブースの大きさに影響を受ける事がわかります。
その為こういう考え方もできます。
 
「安く塗装ブースを作りたいなら、ブース自体を小さくするのも方法の一つである。」
 
実際は計算結果の「排気風量基準[m³/h]」で「圧力損出(+20%)~(+80%)[Pa]」しても十分な性能がある排気装置を選べば
「塗料ミスト」と「揮発性有機化合物(シンナー等)」の一部に関しては問題なさそうです。
 
 
例: 「塗装ブース内の幅と高さと奥行きが40cmサイズを作りたい」とすると
余裕をもって「排気風量基準(0.6m/s)」の「300m³/h」を基本としてそれ以上の排気装置を選ぶ。
ここで「350m³/h」の排気装置を選んだとして、圧力損失計算で「排気ダクト」と「ブース内」の合計圧力損失を求める。
結果「圧力損失(+20%)」が「30Pa」だったとして、今度は静圧ー風量特性曲線の見方で選んだ排気装置の能力が
「300m³/h」で「30Pa」を十分上回っていればまずは問題がないという事となります。
次に厨房での必要換気量一覧で部屋の大きさや等を参考に選んだ排気装置でどの程度吸い残しがあるか考えます。
値的には「天井からの距離1.5m 45m²/h基準の328.05m³/hで3.00畳(半径4.28m)」辺りでしょう。
実際は部屋の中に物が置いていますので4.5畳なら大丈夫かと思います。
気になるなら後から別の換気装置を用意する(後記参考の事)のも手段ですし、この時点でさらに能力の高い排気装置を選ぶ事もできます。
 
 
 
次は設計に移りたいと思いますが、
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